使徒の働き
要約 使徒行伝は、福音書と書簡とを結ぶ架け橋の役割を果たす歴史書です。復活されたイエス・キリストの昇天の後、約束された聖霊が臨まれたことによって、福音がエルサレムを越えてユダヤ全土とサマリヤ、そして当時の世界の中心であったローマにまで広がっていく過程を記録しています。「聖霊行伝」とも呼ばれます。
- 執筆年代
- 紀元後60~63年
- 時代
- 初代教会の時代
背景
時代的・地理的背景 使徒行伝は、復活されたイエスの昇天の後、使徒たちが本格的に活動していた初代教会の時代を背景としています。福音の旅路はエルサレムという小さな都市から始まりましたが、その後アンテオケを経て小アジア(現在のトルコ)、ギリシヤ、そして当時の世界の中心であったローマに至るまで、地中海全域へと絶え間なく広がっていきました。当時の社会は「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」の体制のもとで道路網がよく整備されており、福音が伝えられるのに非常に有利な環境でした。しかし内面的には、伝統を固守しようとするユダヤ教の激しい排斥と、ローマ皇帝崇拝を強いられる政治的圧力や迫害とが共存する、緊迫した過渡期の時代でもありました。 執筆の目的と背景 ルカがこの記録を残したことには、三つの核心的な目的があります。 第一に、福音がユダヤ人という民族の垣根を越えて、すべての国々と異邦人のための普遍的な救いの知らせであることを確証するためです。 第二に、聖霊の力によって誕生した教会が、どのような迫害の中にあってもどのように成長し広がっていったのかについて、忠実な歴史的証言を残そうとしました。 第三に、キリスト教がローマの法に抵抗する危険な政治集団ではなく、神の国を宣べ伝える純粋な信仰共同体であることを弁明しようとする目的を持っています。
内容
使徒行伝は、「ただ、聖霊があなたがたにくだる時、あなたがたは力を受けて……地のはてまで、わたしの証人となるであろう」という1章8節のみことばを設計図として展開されます。 【第1部】エルサレムとユダヤでの宣教(1章~12章):使徒ペテロを中心に、福音がユダヤ社会の内部に根を下ろしていく過程を扱います。イエスの昇天とペンテコステの聖霊降臨によって教会が形づくられる喜びの瞬間から、ステパノの殉教という苦難、そしてピリポとコルネリオの回心を通して、福音が次第に異邦へと目を向けていく過程を生き生きと描いています。 【第2部】異邦の地のはてまでの宣教(13章~28章):使徒パウロを主人公として、福音が本格的に異邦世界へと伝えられていく過程を扱います。アンテオケの教会から送り出されたパウロが三度にわたる伝道旅行を通して小アジアとヨーロッパに教会を建て、エルサレム会議を経て、ついには囚人の身でローマまで護送される旅路を記録しています。使徒行伝は、パウロがローマの獄にあってもはばかることなく神の国を宣べ伝える場面で幕を閉じ、福音の広がりが止まることのない現在進行形であることを示しています。